今回は、新任管理職を縛りつける「思い込み」―上司は、部下よりも優れていなければいけない―から、どうしたら自分を解放することができるか?ということをお伝えしたいと思います。
次のような人に、この記事を読んでいただけると嬉しいです。
・管理職や上司(リーダー)になったばかりの人
・管理職や上司(リーダー)としての自分の振る舞いや、部下との関係が気になる人
新任管理職を縛りつける「思い込み」とは?
管理職になったばかりの僕は、どんな「思い込み」をしたか?
管理職(課長)になって1年目、僕は次のような3つの「思い込み」をしていました。
思い込み①:「業務について部下よりも詳しく知っていなければいけない」
管理職になると同時に僕は、ほとんど従事経験がない職場に配属となりました。
部下の方が、僕よりも知識・経験が豊富な状態です。
その状態でも、上司である僕は、部下からの「これは、どうしますか?」「どっちにしますか?」との問いに対して、判断しなければいけません。
知識・経験が豊富な部下に、判断を伝える立場の僕は、「業務について部下よりも詳しく知っていなければいけない」と思い込みました。
思い込み②:「人間的な魅力と部下からの人望がなければいけない」
係長時代は、部下は多くても5名くらいだったのですが、管理職(課長)になった途端、係長職も含めて、部下の数は45名に増えました。
年代も20代前半の方から、定年退職が近い方や再雇用(任用)の方まで幅広く、多種多様な部下を動かしていく立場の僕は、「人間的な魅力と部下からの人望がなければいけない」と思い込みました。
思い込み③:「間違わずに、部下に正解を示さなければいけない」
管理職(課長)になり、個々の業務の進め方や中身、完結の仕方はもちろん、業績評価や人事異動など、「自分で決めていい」ことが一気に増えました。
それは、「上司に、正してもらう機会が減る」ということでもありました。
最終決定者である立場の僕は、「間違わずに、部下に正解を示さなければいけない」と思い込みました。
なぜ、僕はそのような「思い込み」をしてしまったのか?
僕は、それら3つの「思い込み」の理由として、管理職になるまでのプロセスが関係していたと考えています。
「業務について部下よりも詳しく知っていなければいけない」と思い込むワケ
プレイヤー時代は、自分の知識・経験を増やし、技術を磨き、それらを頼りに、自分で行動して「仕事の成果」を出します。
そうして、「能力がある」という評価を得て昇進していき、管理職(課長)になるのが一般的なケースです。
そのようなプロセスを経て、管理職を任されたという気持ちが僕にはあり、「能力が低いと部下に思われたくない」、だから「業務について部下よりも詳しく知っていなければいけない」という「思い込み」につながったのだと思います。
「人間的な魅力と部下からの人望がなければいけない」と思い込むワケ
管理職(課長)になる前のステップ、プレイングマネジャー・係長職時代の仕事の仕方にも関係があると考えます。
係長職になると、他のチーム・係との連携や協力しながら仕事を進めていく場面が増え、「調整力」が求められます。
また、チーム・係内では、身近なリーダーとして、メンバーに仕事を教え、相談にのり、励まして、「みんなで成果を出していく」ことが求められます。
そのようなプロセスを経て、「うまく人間関係をつくれる」「頼りがいがある」という評価を得て、管理職を任されたという気持ちが僕にはあり、「人間的な魅力と部下からの人望がなければいけない」という「思い込み」につながったのだと思います。
「間違わずに、部下に正解を示さなければいけない」と思い込むワケ
管理職(課長)になる前、部下としての仕事の仕方にも関係があると考えます。
部下の立場では、自分なりの考えをもった上で仕事を進めていきますが、最終的に「正解」かどうかは、上司が判断します。
なので、上司に「これは違うね」と言われないように、部下は「正解」を提案していきます。
そのような「正解」を提案し続けるプロセスの中で「正しい判断ができる」という評価を得て、管理職を任されたという気持ちが僕にはあり、「間違わずに、部下に正解を示さなければいけない」という「思い込み」につながったのだと思います。
「思い込み」が引き起こすこと
それらの3つの「思い込み」によって、次のように僕は身動きがとれなくなってしまいました。
「業務について部下よりも詳しく知っていなければいけない」が引き起こすこと
僕は、「業務について部下よりも詳しく知っていなければいけない」と思い込んでいたので、「知らないことや経験していないこと」を、部下に聞くことができなくなりました。
かといって、広範囲にわたる業務のすべてについて、詳細な情報を頭に入れておくには、時間も頭の容量も足りません。
「知らないことや経験していないこと」について、部下に教えてもらうことや、情報をもらうことができず、管理職として「情報が不十分なまま判断する」ことになってしまったのです。
「人間的な魅力と部下からの人望がなければいけない」が引き起こすこと
僕は、「人間的な魅力と部下からの人望がなければいけない」と思い込んでいたので、部下に気持ちよく動いてもらうため、「親しみやすく、話しかけやすい上司」「部下に好かれる上司」になることを心がけていました。
その結果、部下に良くない行動が見られても、余程のことがなければ、直接、「指摘する」「叱る」ことを避けるようになりました。
それでは、部下の行動を変えることはできず、「部下を成長させられない」管理職になってしまったのです。
「間違わずに、部下に正解を示さなければいけない」が引き起こすこと
僕は、「間違わずに、部下に正解を示さなければいけない」と思い込んでいたので、「どちらを選んでも、一長一短がある」ようなケースで、「間違ったことはできない」と思うあまり、判断に迷い、時間がかかるようになりました。この迷いや時間は、部下の仕事の停滞につながります。
仕事をしていく上で、明確な「正解」というものは無いケースがほとんどですし、「正解」を選ぶのに困っているからこそ、部下は上司に判断を仰ぎにきます。
それなのに、僕は判断できず、「部下の行動をとめてしまう」管理職になってしまったのです。
新任管理職を縛りつける「上司は、部下よりも優れていなければいけない」という思い込み
この経験から、僕は「上司は、部下よりも優れていなければいけない」という思い込みは、新任管理職を次のように縛りつけると考えます。
・知らないことや未経験のことを部下に聞けず、情報を十分集められない
・部下からの人望を優先して、部下に指摘できず、成長させられない
・間違いを恐れ、判断できず、部下の行動をとめてしまう
管理職とは「何者」なのか?
僕はこのような「思い込み」をして、自分自身を縛りつけていたのですが、次の2冊の本を読んだことをきっかけに、そこから自分を解放することができました。
・「リーダーの仮面―「いちプレイヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法」(ダイヤモンド社)
・「とにかく仕組み化―人の上に立ち続けるための思考法」(ダイヤモンド社)
その中でも、特にヒントになったのは、次の一節です。
リーダーは、「上司としての責任があるから、指示できる立場にいる。」それ以上でも以下でもないのです。<略>
上司のほうが人間的に偉いわけではありません。会社というもの自体、1人の力では達成できないような社会への大きな目的を達成するための「機能」にすぎません。
引用元:『リーダーの仮面―「いちプレイヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』<著者:安藤広大>(ダイヤモンド社)
「歯車になること」の力に気づき、いったん受け入れた人から、成長ははじまります。任された機能を果たし、ゴールへと迷わず進むこと。
引用元:『とにかく仕組み化―人の上に立ち続けるための思考法』<著者:安藤広大>(ダイヤモンド社)
「管理職」や「部下」は「機能」に過ぎない
僕は、「上司」と「部下」は、上下関係にあると考えていました。
能力が優れている「上司」が上に立ち、その下にいる「部下」は従わなければいけない。
そう考えていました。
管理職になったばかりの頃、僕は自分の能力や人柄が優れているから、「管理職」を任されたと思っていました。
だから、僕は、「部下の上に立っていなければいけない」と思い込んでいたのです。
でも、もし僕が「管理職」になっていなくても、他の誰かが「管理職」の役割を果たしているはずです。
そう考えて、この「機能に過ぎない」という観点で、上司・部下の関係を見直すことが「思い込み」を払拭することにつながりました。
・上司は、仕事・職場で「決める」機能を果たす人
・部下は、仕事・職場で決められたことを「実行する」機能を果たす人
これらの2種類の人がいるから、組織は目標に向かって、進んでいけるのです。
その関係性は、上下ではなく、同じ目標の下にいる横並びの関係だと僕は考えています。
上司と部下は「機能が異なる」のですから、「部下よりも優れていなければいけない」と思い込み、
・部下と比較した自身の能力
・部下からの人望
・決めたことへの部下の反応
こういったことを、気にして、自分の行動を縛る必要はないのです。
「機能が変わったこと」を認識することで、できるようになること
管理職・上司になる=自分の「機能が変わる」ということを、きちんと認識できると、「思い込み」から解放され、次のことができるようになります。
「決める」際に、必要な情報を部下に求めることができる
管理職・上司の「機能」は、「決める」ということです。
この機能は、「部下」には、ありません。
部下の機能は「情報を集め、提供する」ことです。
なので、自身の能力を部下と比較したりせず、判断に必要な情報の提供を気兼ねすることなく、部下に求めることができるようになります。
それは、ただの「機能」に過ぎないからです。
堂々と必要な「指摘」を部下にすることができる。
部下の行動が組織目標に合致しているか、していないかを「決める」ことも、管理職・上司の「機能」です。
そして、指摘された行動について、組織目標に沿って「改善を実行する(成長する)」ことは、部下の「機能」です。
これらは、上司と部下の人間関係、人望を前提に成り立つものではありません。
自分に自信がなくても、堂々と部下に指摘できるようになります。
それは、ただの「機能」に過ぎないからです。
(「指摘する」ことに関連する学びや僕の考えは、別記事「正しく叱る」をご覧ください。)
判断が難しいケースでも、「決める」ことができる。
完全な「正解」が無いことが多い仕事の世界で、管理職・上司の存在意義は、この「決める」という機能だと僕は考えます。
部下は、自分たちにはできない「決める」という機能を果たしてくれることを求めています。
だから、「正解か不正解か?」「部下は、その決定にどういう反応を示すか?」を気にして「決定を先延ばし」にするのではなく、まずは「決める」ことを実行する必要があります。
管理職・上司として「決めること」が、部下の仕事を前に進めていくと考えると、判断が難しいケースでも決断することができるようになります。
そうして、部下が進んだ先を「正解にしていく」ため、「必要な決定をし続ける」ことが、管理職・上司の機能なのです。
管理職が「機能」を果たすために、力を注ぐべきこと
では、この管理職・上司の「決める」という「機能」を十分果たすためには、日ごろから、どんなことに力を注いでおくべきでしょうか?
僕は次の3つだと考えています。
組織やチームの未来を見通すこと
現場では、部下が毎日、目の前の情報を処理し、仕事・タスクを「実行」してくれています。
管理職・上司は、その部下には見えていない、「組織やチームの未来」について「より遠くを見通す」ことに注力すべきです。
管理職・上司には、「組織やチームの未来」を見据えた「決断」が求められるからです。
そして、その機能―誰よりも遠くの未来を見通していること―に、部下はついてくるのだと僕は考えます。
組織やチームの目標、仕事の意味と向き合うこと
現場では、部下が仕事・タスクを「実行」し、組織やチームを前に進めてくれています。
管理職・上司は、部下の目指す先にある「組織やチームの目標、仕事の意味」と向き合い、「より深く考える」ことに注力すべきです。
管理職・上司には、「組織やチームの目標、仕事の意味」に照らした「決断」が求められるからです。
そして、その機能―誰よりも、目標や仕事の意味と深く向き合っていること―に、部下はついてくるのだと考えます。
確かな価値観と行動基準を持つこと
管理職・上司として「決断」するためには、その判断軸が必要です。
この軸がブレてしまうと、「決断」できなかったり、方向性がその都度変わり、現場で仕事・タスクを「実行」する部下の行動をとめたり、混乱を生じさせます。
この軸となるものが、管理職・上司としての「価値観」と「行動基準」です。
管理職・上司は、組織やチームの未来を見通し、その目標や仕事の意味と向き合い、自分の「価値観」と「行動基準」を「確かなもの」とすることに注力すべきです。
管理職・上司には、「組織やチームのため」の確固たる「決断」が求められるからです。
そして、その機能―誰よりも、確かな価値観と行動基準をもっていること―に、部下はついてくるのだと考えます。
(「価値観と行動基準」に関連する学びや僕の考えは、別記事「目標を設定する」や「価値観を共有する」をご覧ください。)
僕が考える管理職とは?
これらの気づきから、僕は、「管理職」について、次のように考えています。
・「管理職」とは、組織における機能の一つに過ぎず、「決める」ことを担う人である。
・「管理職」とは、「決める」という機能を果たすために、「より遠くの未来を見通し」「目標や仕事の意味をより深く考え」「確かな価値観や行動基準」を持っている人である。
「上司は、部下よりも優れていなければいけない」という思い込みから自分を解放する方法
以上のことから、僕が学んだ「上司は、部下よりも優れていなければいけない」という思い込みから自分を解放する方法は、次のとおりです。
✓ 管理職は、ただの「機能」の一つであり、「機能」が異なる「部下」は、比較対象ではないと認識すること
そして、管理職の機能―決めること―を果たすために、次の3つに力を注ぎ切ること
✓ 「組織やチームの未来」について、より遠くを見通すこと
✓ 「組織やチームの目標、仕事の意味」と向き合い、より深く考えること
✓ 組織やチームの「未来」や「目標・仕事の意味」を受けた「確かな価値観や行動基準」を持つこと
本から得た学びを実践し、より良い明日、
より良い世の中に。
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