今回は、「ワークライフバランス」の話です。
Z世代や子育て世代、親の介護世代など、様々な年代・状況の部下と一緒に仕事を進めていく管理職には、メンバーの「私生活」にも配慮した職場運営が求められています。
・「仕事」と「私生活」を切り分けることが引き起こすこと
・仕事から「やりがい」や「充実感」を得るためには?
・部下の人生を「豊か」にするために、管理職ができることは?
という内容について書かせていただきました。
次のような人に、この記事を読んでいただけると嬉しいです。
・「ワークライフバランス」を重視した職場運営をしている管理職や上司の人
・部下に、仕事から「やりがい」や「充実感」を得てもらいたいと願う管理職や上司の人
・「仕事」も「私生活」も「豊か」にしたいと思っている人
「ワークライフバランス」への疑問
仕事から「やりがい・充実感」を得られない部下
僕は、部下に職場を辞めずに居続けてもらい、良い成果を出し続けてもらいたいと思っています。
そのためには、仕事から「充実感・満足感」が得られることが大切だと考えています。
(この内容については、別記事『【学び】「強み」に注目する』をご覧ください。)
ある部下との面談で、次のようなやりとりがありました。
仕事で、「やりがい、充実感」を感じるのは、どんなとき?
仕事で、そういったものを感じるときは、全くないです。
そうなの?じゃあ、あなたが仕事をする目的を教えてもらっていい?
仕事だから、してるだけです。給料をもらうためですね。
給料以外に職場に求めるものとか、大切にしてることってある?
定時に帰れることですね。
プライベートを充実させたいので、ワークライフバランスを大切にしてます。
僕は、この「ワークライフバランス」という言葉が気になりました。
「ワークライフバランス」とは?
「ワークライフバランス」という言葉を調べてみると、「仕事と生活の調和」という意味で使われているようです。
誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。
引用元:「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」<内閣府男女共同参画局『「仕事と生活の調和」推進サイト』>
一方で、僕は「ある部下」が言う「ワークライフバランス」に、次のような印象を受けました。
・「仕事」と「私生活」は、全くの別もので、相反するもの
・仕事は暮らしていくための「手段」で、私生活こそが「人生の目的」
・仕事は「ストレス・負担」で、私生活が「充実や満足」の対象
「ワークライフバランス」への疑問
僕の職場でも「ワークライフバランス」を目的に「時間差出勤制度」や「育児休暇制度」があります。
また、事務の効率化をすすめ、「残業の削減」や「年次休暇の取得」が促されています。
これらのことは、ある部下の「プライベートの充実」の実現に役立つように思えます。
ただ、僕は次のような疑問も感じていました。
「やりがい・充実感を感じない仕事」にかける時間をできるだけ減らし、仕事のストレスの埋め合わせとして「私生活」を満喫できている状態が「バランス・調和」なのだろうか?
そして、その「バランス」をとろうとすることが、「豊かな生活」につながっていくのだろうか?
「仕事」も「私生活」も「分けることのできない1つの自分」
そのような疑問を感じているとき、僕は次の1冊の本を読みました。
・「NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘」(株式会社サンマーク出版)
次の一節をヒントに、僕は「ワークライフバランス」について考えることができました。
バランスを取ろうとしてもがいていると、<略>自分の時間にたえまなく入り込んでくるものや、容赦なく上がっていく仕事への期待に対してバリケードを張っている気さえしてくる。<略>
バランスはどっちみち達成しようがない目標なのだ。たえまなく変化する世界のなかで、瞬間的な静止状態を目指す試みなのだから。
引用元「NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘」<著者:マーカス・バッキンガム、アシュリー・グッドール、訳者:櫻井祐子>(株式会社サンマーク出版)
あなたを夢中にさせ高揚させる、ほかとははっきり異なる際立ってポジティブな感情を生み出す<略>活動を、あなたの「赤い糸」と考えよう。<略>
仕事という素材を使って本当の赤い糸を見つけ、それを使って何か強くてすばらしいものを責任をもって織り上げることを、仕事そのものの目的にしたらどうだろう?
引用元「NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘」<著者:マーカス・バッキンガム、アシュリー・グッドール、訳者:櫻井祐子>(株式会社サンマーク出版)
「仕事」と「私生活」を切り分けても「バランス」はとれない
仮に、ある部下が言ったように、仕事は「やりがい・充実感」がゼロで、ストレス・負担になるだけの「悪いもの」(マイナス)だとします。
そして、「私生活」は「満足感や幸せ」が満載で、人生を豊かにする「良いもの」(プラス)だとします。
ある部下が言った「バランス」は、天秤の一方に「仕事」を、もう一方に「私生活」を載せ、その釣り合いが取れる状態を目指すようなものだと僕は思います。
「仕事」と「私生活」を「完全に切り離された全くの別もの」と捉えれば、捉えるほど、その天秤は「私生活」の瞬間には「プラス」に振り切って止まるでしょうし、「仕事」の瞬間には「マイナス」に振り切って止まります。
「仕事」と「私生活」の重みを変えて、何度この試みを続けても、天秤はガタガタと「プラスとマイナスをくり返す」だけで、ちょうどよく「バランスがとれた状態」で静止することはないように思います。
どれだけ「私生活」を満喫し、「良いもの」を自分に取り入れ、強くなれたとしても、「仕事」の瞬間には、それらは、すべて失われ、弱い自分になってしまう。
そのような「仕事」と「私生活」で、両極端な自分でいることが「豊かな生活」につながるようには、僕は思えないのです。
「とれないバランス」をとろうとして起きること
この「とれないバランス」をとろうとすることは、次の2つの観点からも、「豊かな生活」から離れていくことになると僕は考えます。
私生活への過度な期待・焦り
仕事でストレスや負担を感じている自分は、私生活でそのマイナス分を帳消しにするだけの「満足」を得る権利があると考えます。
仕事のストレスや負担が大きくなればなるほど、この思いは強くなりますが、際限なく私生活を満喫するには、時間もお金も足りないのが実情です。
そして、私生活にだって、苦労やストレスはあります。
「私生活は、もっと良いものであるはずだ」という過度な期待・焦りから、現実との差―私生活での少しの不満やつまづき―を感じるようになります。
仕事をさらに敵視する
どれだけ「私生活」を満喫できたとしても、「仕事」の瞬間には「仕事と向き合う」しかありません。
その「仕事」の瞬間には、ストレスに耐えて手に入れた「私生活」の効果は消えてなくなり、「弱い自分」を感じるようになります。
「仕事」と「私生活」を切り離して、「私生活を満喫して、バランスをとろう」とした人ほどその落差は大きいと僕は考えます。
そして、「私生活」を台無しにしてしまう「仕事」をさらに敵視するようになります。
「仕事」の時間は、じっと息を潜め、「私生活」の時間を待つだけになります。
「仕事」も「私生活」も「分けることのできない1つの自分」
「仕事」と「私生活」のバランスがとれないこと、さらには、バランスをとろうとすること自体が「豊かな生活」につながらない原因は、仕事に「やりがい・充実感」がなく、ストレスだけを生じるものだからではありません。
「私生活」を十分満喫するだけの「時間やお金」がないことでもありません。
僕は、その原因をこう考えます。
・「仕事」を「自分」から切り離して拒絶すること
・その結果、「私生活」に「仕事のマイナス分を埋めるための対価」を求めてしまうこと
もし、「仕事」を自分の中に受け入れ、その中から「自分を強くしてくれるもの」を見つけることができたらどうでしょうか。
「仕事」も自分の大切な一部と感じることができるようになります。
「私生活」に過度な期待をして、焦りを感じることもなくなると思います。
「仕事」も「私生活」も、同じ1日の中のつながった時間の流れとして捉え、それぞれから自分なりの「楽しみ」や「良いもの」を取り入れ、活動していくことができるようになると僕は考えます。
「仕事」も「私生活」も「分けることのできない1つの自分」であると捉えて、どちらからも「良いもの」を取り入れている状態が「調和」であり、「豊かな生活」につながると僕は考えます。
仕事の中にある「自分を強くしてくれるもの」を見つけること
仕事の中にある「自分を強くしてくれるもの」とは?
僕は、仕事の中にある「自分を強くしてくれるもの」を次のようなものと考えています。
・自分なりの「意味や楽しみ」を感じることができ、そこから「良いもの」(プラスの影響)を自分の中に取り入れることができるもの
・その取り入れた「良いもの」を原動力に活動し、その活動から充実感や満足感が得られるもの
この「自分を強くしてくれるもの」は、仕事の中から見つけることができると僕は考えます。
「仕事」という経験の中で、自分がこれまでに気づかなかった「楽しみや感情」を見つける。
その「楽しみや感情」を活かして、「仕事」だからこそできる貢献をする。
それが「自分を強くしてくれるもの」になります。
「知らなかった自分を発見すること」「自分を強くしてくれるものを見つけること」を仕事の目的とすること、それこそが「豊かな生活」につながると僕は考えます。
「自分を強くしてくれるもの」を見つけられるのは自分以外にいない
「自分を強くしてくれるもの」は、自分の「楽しみや感情」とつながっています。
なので、それが「何か」わかるのは自分だけですし、それが「自分を強くしてくれる状態」にできるのは自分だけです。
そのためには、仕事をしているときの、自分の感情・反応に注目する必要があります。
仕事で「楽しさ」を感じたり、「感情が動いた」ことは、続けてやってみること。
そうして、「楽しみや感情」を仕事の中から、少しずつ「感じ取れるようにしていく」ことです。
これは仕事を自分とは別ものとして「拒絶」している間は、絶対にできないと僕は考えます。
自分自身で、時間をかけながら、「自分の楽しさや感情」「自分を強くしてくれるもの」を仕事の中に入れ込んでいくことが、「やりがい・充実感」、そして「豊かな生活」につながると僕は考えます。
部下の「豊かな人生」のために管理職ができること
部下の人生を「豊か」にする「自分を強くしてくれるもの」を見つけることは、部下自身にしかできません。
それが「何か」は、管理職である僕にはわからないのです。
なので、「仕事で、やりがいや充実感を全く感じない」「ワークライフバランスが大切」と言った「ある部下」に対して、僕ができることは、次の2つです。
部下の「楽しみや感情」に注目し、部下自身に気づいてもらうこと
面談などの機会に、部下の「楽しみや感情」に管理職である僕が注目していることを、部下に伝えることです。
そして、部下自身に「楽しいこと」「感情が動いたこと」を思い浮かべてもらうことです。
初めは「全くない」といった反応かもしれませんが、少しずつ、どれだけ細くても構わないので、「仕事」と「感情」を結びつけることから始めることだと僕は考えます。
部下の「楽しみや感情」につながる仕事の「機会」を設けること
部下の「感情」と「仕事」の結びつきが、ほんの少しでも見えるようになったら、次は、その結びつきを太くする「機会」を設けることです。
どのような仕事・作業に「自分を強くしてくれるもの」を見つけるかは、部下にしかわかりません。
仕事の効率化やDXが、部下の「良さ」を奪うかもしれません。
部下の「感情の動き」に注目して、目を凝らして、部下の「楽しみや感情」につながる仕事を用意し、その中で「自分を強くしてくれるもの」を見つけてもらうことだと僕は考えます。
部下の人生を「豊か」にするために、ワークライフバランスよりも気にかけるべきこと
以上のことから、僕が学んだ「部下の人生を『豊か』にするために、ワークライフバランスよりも気にかけるべきこと」は、次のとおりです。
✓ 「仕事」も「私生活」も「分けることのできない1つの自分」であること。どちらからも「良いもの」を取り入れている状態が「豊かな生活」につながること。
✓ 「自分を強くしてくれるもの」を仕事の中に見つけることが大切であること。それを見つけることを仕事の目的とすると、「豊かな生活」につながること。
✓ 管理職ができることは、部下の「感情の動き」に注目し、「楽しみや感情」につながる仕事の機会を用意すること。
本から得た学びを実践し、より良い明日、
より良い世の中に。
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